連星系・変光星研究会2022 講演概要

1日目 (12/16)

不規則銀河に現れた暗いIa型超新星 SN 2020qxp の早期観測に基づく研究 (山中 雅之)
暗いIa型超新星のサブクラスは楕円・S0銀河に多く出現し、古い種族起源である可能性が示唆されている。我々は、不規則銀河に出現した暗いIa型超新星SN 2020qxpについて、かなた・せいめいによって早期観測を実施しその性質を調査した。その結果、SiII 6355/5972 の大きな等価幅、極大光度1週間前以降に大きな速度勾配を示したこと、これまで知られている暗いIa型と同程度の光度を持つこと、などを明らかにした。これらの特徴は暗いIa型と膨張速度の大きなIa型の両面の性質を持つことを意味する。標準的な爆発モデルで予言される特徴などと比較し、その起源について議論を行う。
何故 Type II SNe は爆発しないのか (藤本 正行)
Type II 超新星爆発の機構は、 B2FH(1953) の提起を受けて、1960年代以降、多くの研究がなされてきたが、未だに解明には至っていない。このことは、これまでの研究に問題があることを意味している。本講演では、この間の恒星の構造と進化の理論の発展を踏まえて、現行モデルの問題点を剔抉し、新たな超新星爆発機構の可能性を探る。
HINOTORI システムによる星周メーザー源モニター観測 (今井 裕)
HINOTORI (Hybrid Integration Project in Nobeyama, Triple-band Oriented) は、野辺山45m電波望遠鏡で3周波数バンド(22/43/86 GHz)完全同時観測を実現するシステムである。これにより、AGB/後AGB星周縁に付随する水、一酸化珪素、メタノール分子の熱的/メーザー輝線を同時に高感度で観測できる。今年このシステムが完成しリスクシェアで公開することにしたので、その仕様と科学観測目標について紹介する。
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赤色巨星のLSPとその周期変動 (高山 正輝)
明るい赤色巨星、特にAGB星段階の星ではおよそ30%の割合で、その脈動周期を大きく超える長周期変光(Long Secondary Period)が見つかっている。LSPは未だにその原因がわかっていないが、近年多くのLSP星で中間赤外線の光度曲線に副極小と考えられる振る舞いが見つかった。これは食現象を示唆する証拠と考えられている。一方星の脈動で説明を試みた仮説もあり、決着がついていない。 そこでOGLEのアーカイブデータを使い、LSPの周期の変動をwavelet解析を用いて調査した。その結果サンプル全体の少なくとも2%程度の星で、観測期間中の周期の変動が示唆された。食現象であれば大きな周期の変動は考えにくい。本講演では途中経過を報告する。
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TMMT と Gaia を用いた太陽近傍のレッドクランプ星の近赤外線の絶対等級の調査 (小野里 宏樹)
レッドクランプ星は絶対等級や色指数のばらつきが小さく、天体数が多く、HR 図上で容易に認識できることから広く標準光源として用いられている。特に近赤外線では絶対等級の年齢や金属量依存性も小さく、星間減光の影響も受けにくい。したがって、レッドクランプ星をより優秀な標準光源とするためには近赤外線での絶対等級を正確に決定することが重要である。絶対等級を正確に決定するためには、弱いとはいえ遠方にあると影響を受ける星間減光の効果が無視できる太陽近傍にあるレッドクランプ星を観測する必要がある。  しかしながら、太陽近傍に存在するレッドクランプ星は既存の望遠鏡・近赤外線装置にとっては明るすぎて飽和してしまうため、制度の良い観測を行うことができていない。そのため Gaia により高精度の距離情報が得られてもそれを活かせず、太陽近傍のレッドクランプ星の近赤外線の絶対等級は精度よく決定されていない。そこで我々は、そのような非常に明るい天体を観測するための専用の超小型赤外線望遠鏡 TMMT を用いて銀河面に存在する太陽近傍のレッドクランプ星の観測を行った。本公演では TMMT の近赤外線等級と Gaia DR3 の距離情報を組み合わせて得られた太陽近傍のレッドクランプ星の近赤外線の絶対等級について報告する。
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セファイド変光星の近赤外線高分散分光観測によるリン元素組成の研究 (松永 典之)
リンは生命にとって重要な元素であるにもかかわらず、可視光スペクトルに吸収線が現れず元素組成が進んでいない。そこで、リンの吸収線が現れる近赤外線での分光観測が重要である。特にセファイド変光星はリンの吸収線が強くなる有効温度と表面重力をもち、銀河系円盤の広い範囲でのリン元素組成を調べるのに有効な天体である。本講演では、これまでに行ったリン測定の基礎的な研究の結果と今後の研究計画について紹介する。
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低分散分光によるTiOバンド吸収から求めたベテルギウスの有効温度の変化 (大島 修)
ベテルギウスの大減光期に得た低分散スペクトルからTiOバンド吸収量を求め、ひまわりの多波長バンドから得た有効温度(Taniguchi et al. 2022)と比較した。TiOバンドの吸収量を求めるにあたって、「疑似等価幅」という独自の測定方法を用いたが、その問題点と方法改良にも触れる。独立した3箇所の観測スペクトルから系統的誤差をほぼなくすことができ、その値はひまわりによる有効温度と誤差範囲で一致した。その結果、大減光において、有効温度の極小はV等級の極小よりほぼ1ヶ月遅れていたことがわかった。
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X-ray and optical spectroscopic study of a γ Cassiopeiae analog source π Aquarii (辻本 匡弘)
γ Cas analog sources are a subset of Be stars that emit intense and hard X-ray emission. Two competing ideas for their X-ray production mechanism are (a) the magnetic activities of the Be star and its disk and (b) the accretion from the Be star to an unidentified compact object. Among such sources, π Aqr plays a pivotal role as it is one of the only two spectroscopic binaries observed for many orbital cycles and one of the three sources with X-ray brightness sufficient for detailed X-ray spectroscopy. Bjorkman et al. (2002) estimated the secondary mass >2.0 M⊙ with optical spectroscopy, which would argue against the compact object being a white dwarf (WD). However, their dynamical mass solution is inconsistent with an evolutionary solution and their radial velocity measurement is inconsistent with later work by Nazé et al. (2019). We revisit this issue by adding a new data set with the NuSTAR X-ray observatory and the HIDES échelle spectrograph. We found that the radial velocity amplitude is consistent with Nazé et al. (2019), which is only a half of that claimed by Bjorkman et al. (2002). Fixing the radial velocity amplitude of the primary, the secondary mass is estimated as <1 M⊙ over a wide range of assumed primary mass and the inclination angle. We further constrained the inclination angle and the secondary mass independently by fitting the X-ray spectra with a non- magnetic or magnetic accreting WD model under the assumption that the secondary is indeed a WD. The two results match well. We thus argue that the possibility of the secondary being a WD should not be excluded for π Aqr.
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2日目 (12/17)

Optical & X-ray simultaneous observations of the brightest dwarf nova SS Cyg (木邑 真理子)
矮新星は、白色矮星(主星)と低質量星(伴星)から成る近接連星系で、主星の周囲に円盤を持つ。円盤の熱不安定により、アウトバーストと呼ばれる突発的増光を起こす天体である。SS Cygは一番明るい矮新星として知られており、可視光では100年以上も観測されてきた。その間、およそ一ヶ月おきに振幅3~4 magのアウトバーストを繰り返しており、矮新星のプロトタイプであるとみなされていた。ところが、2021年2月、SS Cygは振幅およそ1 magの小規模な増光を繰り返す異常な振る舞いを示し始めた。私達は、この異常な振る舞いとその前兆現象について、可視光・X線の同時観測を行った。データ解析の結果、円盤粘性の増加が異常な振る舞いに寄与している可能性があること、X線を放射する主星付近の高温プラズマが拡大している可能性があることなどが示唆された。本講演では、これらの観測結果と解釈を紹介する。また、明るい天体の長期観測や可視光・X線の同時観測の将来性についても議論する。
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SS Cyg の測光観測 (赤澤 秀彦)
2019年8月21日から現在までRcフィルターによるSS Cygの測光観測を続けています。静穏状態とアウトバーストの期間やパターンなどについて考察します。
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異常に減光の遅い長軌道周期矮新星ASASSN-19rx (伊藤 潤平)
多くの矮新星の軌道周期はおよそ10時間以下である。しかし、一部の矮新星は、伴星が(準)巨星に進化し、より長い軌道周期を持つ。このような長軌道周期矮新星では光度全体に対する伴星の寄与が大きく、outburstの減光のタイムスケール(1等減光するまでの時間)が軌道周期に対して長い。しかし、その中でも軌道周期が約2.5日の矮新星ASASSN-19rxは特に減光のタイムスケールが長く、単に伴星の寄与が大きいとするだけでは説明できない。 本研究ではASASSN-19rxの測光・分光観測から連星パラメータを推定し、減光のタイムスケールの長さの原因に関し考察を行ったので報告する。
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せいめい望遠鏡TriCCSによるEarly superhumpの多色観測と円盤高度構造の再構成 (反保 雄介)
矮新星 PNV J00444033+4113068 (以下 J0044) のせいめい望遠鏡 TriCCS と vsnet collaborationによる連続測光観測を中心に報告する。J0044 では食が観測され,その軌道周期は 0.055425534(1) 日と決定された。J0044 で観測された ealry superhump の振幅は 0.7 等級に達し,既知天体の early superhump では最も大きい値となった。また,TriCCS による多色測光によって,その色は副極小付近で最も赤くなることがわかったが,これは他天体で観測された主極大付近で最も赤くなる挙動とは異なるものである。これらユニークな特徴が他天体と同様な円盤構造で説明されうるか確認するため,TriCCS による 3 色同時測光データを,Uemura, et. al., (2012) による early superhump mapping コードを用いて解析した。その結果,J0044の early superhump の振幅と色変化は,他天体と同様に,高さ方向に変形した腕構造を持つ降着円盤によって説明されうることが判明し,early superhump の更なる多様性が腕構造を持つ円盤で説明できることを確認した。
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新星爆発中の衝撃波形成ーー吸収線および輝線システム,硬X線,γ線の起源 (蜂巣 泉)
新星爆発中のスペクトルに速度成分の異なる P Cygni 吸収線, あるいは輝線システムがあることが1930年代から知られている。McLaughlinはこれらをまとめて, pre-maximum, principal, diffuse-enhanced などと名付けた。新星の放出ガスに速度が違う成分が同時に存在することを示している。また、1990年代以降,硬X線が観測されるようになり,放出ガス中の衝撃波が起源ではないかと,推測されるようになる。2010年代以降,GeVガンマ線が観測されるに至り,衝撃波形成は動かしがたい事実となった。ところが,理論的には新星風は吹くが,新星爆発中に(光球内では)衝撃波は発生しない。最近,私たちは新星爆発進化の内部時間発展解と定常風の外層解を同時にコンシステントに解くことで,定常風の時間発展を追いかけることができた。それを基に,光球外の流体の運動を解き,光球遠方で強い衝撃波が発生することを示せた。これにより,今までの課題であった,吸収線および輝線システム,硬X線,γ線の起源を統一的に説明することができる。
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V5097 Sgrの測光観測 (清田誠一郎)
V5097 Sgrは、別名うずまき星というダストリッチなWolf-Rayet星である。長谷田による食変光が指摘されてから、モニター測光観測を続けている。提案されている243.5日の連星周期(Katoら、2002)について、最近の観測結果を合わせて検証した。
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PRIME計画:近赤外線広視野カメラを用いた重力マイクロレンズ惑星探査 (鈴木大介)
これまでに可視光を用いた銀河系中心方向の重力マイクロレンズ探査によって100個以上の冷たい系外惑星が検出され、統計解析から主星を持たない浮遊惑星の存在も確認されている。しかし、海王星質量程度以下の冷たい惑星の統計量はいまだ不十分で、その存在頻度に大きな不定性がある。これを明らかにするには、イベントレートが10^-8程度の数時間の光度変動を検出し、その統計を増やす必要がある。PRIME (PRime-focus Infrared Microlensing Experiment) 計画では新たに口径1.8mの望遠鏡を南アフリカ天文台サザーランド観測所に建設し、近赤外線を用いることでダスト減光を抑え、銀河面を含む低銀緯領域に対してマイクロレンズ惑星探査を実施する。これにより、統計量を現在の約3倍に増やし、氷境界以遠において重たい惑星から地球質量程度までの惑星の存在量を明らかにする。また、PRIMEは、将来の銀河系中心探査の事前観測としての重要な役割を担う。具体的には、2026年打ち上げ予定のRoman宇宙望遠鏡では銀河系中心方向の時間軸探査(マイクロレンズ惑星探査)を実施する予定だが、PRIMEの事前観測の結果からRomanの探査領域を最適化する。本講演では、これまでの可視光によるマイクロレンズ探査とPRIME計画を紹介する。また、現在コミッショニングフェーズであるPRIME望遠鏡の進捗も簡単に報告する。
太陽系外惑星TrES-1bの多波長トランジット観測 (植野雅々)
1995年にMayorとQuelozが51Pegの周りを周回する惑星51Peg bの発見して以来、様々な方法で系外惑星の研究が続けられている。惑星を検出する方法の一つにトランジット法がある。系外惑星が大気を持っている場合、トランジット中に主星の光の一部が惑星の上層大気を通過し、原子や分子によって吸収されることがあり、波長によってわずかにトランジットの深さが異なる。本研究では、西はりま天文台なゆた望遠鏡に搭載された近赤外撮像装置NICを用いて太陽系外惑星TrES-1bのトランジットを観測した。本発表では、観測されたトランジットの深さから求められた波長ごとの主星と惑星の半径比から、惑星の大気について議論する。
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接触食連星の光度曲線の差分による質量比の推定 (高妻真次郎)
質量比は、連星系において非常に重要なパラメータである。正確な質量比を求めるには分光観測により視線速度曲線を得る必要があるが、様々な負担が大きく容易ではない。測光質量比は、一般的には光度曲線のモデリングにより得ることができ、簡便に質量比を推定する方法として知られている。しかし、測光質量比の推定には、パラメータを調整しつつ光度曲線のモデリングを繰り返す必要があり、時間的な負担は大きい。
我々は、一部の接触食連星について、光度曲線の差分により得られる曲線に現れるいくつかの極値の位相を測定するだけで、測光質量比を推定できる方法を考案した。本手法では、十分な精度・観測点をもつ光度曲線があれば、機械的かつ即時に測光質量比を推定できる。講演では、手法の詳細や、適用可能な連星、および分光質量比との比較などについて報告する。
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食連星BL Andの光度曲線解析-物理量の絶対値導出へ向けて- (佐々井祐二)
食連星の測光データ(小口径望遠鏡+冷却CCDカメラ)で物理量の比が得られる。絶対値を得るためには,視線速度を生成する分光データ(分光器)が必要であるが,口径1m程度の望遠鏡でも取得が困難である。そこで,教育現場等で取得可能な測光データに情報を追加しスケールを組み込み解析を行いたい。本発表ではBL Andの解析取組みを紹介する。
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GR Tau観測中に現れた奇妙な明るさの変動について その2 (伊藤芳春)
昨年の発表ではGR Tauの観測中2つの変動が現れ,緩やかな変動はフラットの取り方に問題のあることがわかった。振幅が約0.01等,周期が0.0452日の変動は望遠鏡によるものか比較星の変光によるものか不明であったが,TESSの観測から比較星がたて座δ型の脈動変光星であることがわかった。
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短周期アルゴル系U CrBのHα分光観測 (鳴沢真也)
短周期アルゴル系U CrBの主極小でのHα分光観測を今年4月6日と5月14日に美星天文台で行った。観測から理論を差し引いた差分スペクトルには、吸収線とその両翼に輝線が見られるが、これは非対称の降着環流によるものと思われる。また4月の吸収線の内部にはレッドシフトするナローな輝線が見られるが、これは5月の観測では弱体化していた。
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Gaia DR3におけるブラックホール連星探査 (谷川衝)
Gaia DR3は30万個の連星の軌道解を提供した。そのうちの64000個は位置天文解と分光解の両方を持っている。我々はこの64000個の中からブラックホール連星を探査した。その結果、赤色巨星であるGaia DR3 5870569352746779008という天体が、5.25太陽質量以上の質量を持った見えない星を伴星としていることがわかった。中性子星の最大質量が2太陽質量程度であることから、この見えない伴星はブラックホールである可能性が高い。この連星の周期は1000日以上であり、もしこれが本当にブラックホール連星なのであれば、過去発見されたブラックホール連星のうちで最大の周期を持つことになる。もしこれがブラックホール連星でないのならば、赤色巨星の周りを公転している3連星(または4連星以上)の天体であり、より特異な天体となる。本講演では、ブラックホール連星と確定させるためにはどのようなフォローアップ観測が必要であるかを議論する。
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共生星MWC 560の可視分光観測 (安藤 和子)
共生星MWC 560(V694 Mon)は赤色巨星と白色矮星の共生連星として考えられている。2018 年11 月にGoranskij. et al. (Atel # 12227) により、2018 年11 月16 日に水素のBalmer 線にP Cygni プロファイルの消失とイレギュラーな増光が報告された。その後観測シーズンごとに増光を示しており、その期間の観測で水素のバルマー線、Si IIのスペクトルが変化していく様子を捉えた。本発表では、この天体に対し行った観測結果を報告する。
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若い太陽型星の黒点とフレアによる変光の調査 (山下真依)
前主系列星や零歳主系列星の表面磁場は強く,巨大な黒点や明るい彩層輝線が生じると言われている.本研究では前主系列星27 天体と零歳主系列星33 天体に対して,TESSデータから光度の振幅を測定し,彩層輝線の強度との関係を調査した.近赤外Ca II三重輝線の強度と連続光の光度の振幅の正の相関は,太陽,スーパーフレア星(G 型主系列星) の延長線上に位置することが分かった.若い太陽型星は黒点を原因とする変光を示し,主系列星よりも黒点または黒点群の面積が広いことが示唆される.講演ではフレアについても言及する.
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3日目 (12/18)

可視光分光観測で迫る太陽型星スーパーフレア研究の新展開 (行方宏介)
近年、恒星のスーパーフレア(最大級の太陽フレアの10倍以上の規模)への関心が高まっている。恒星の磁気活動性は周囲の系外惑星の環境を決める上でも重要な役割を果たし、また、フレアに伴う質量噴出は恒星の質量・角運動量進化にとっても重要だからである。特に太陽型星(G型主系列星)でのスーパーフレアは、我々の太陽の周りの惑星環境の進化を知る手がかりにもなり、注目されている。2012年にKepler衛星により太陽型星でもスーパーフレアが発生していることが発見され、社会的な注目を浴びた。しかしそれ以降は、Kepler/TESS衛星による可視光測光観測の時代が続き、フレアに伴う質量噴出など分光観測による描像は全くの未解明であった。そんな中、我々はせいめい望遠鏡、なゆた望遠鏡、及び188cm望遠鏡を駆使し、活動的な太陽型星EK Dra, V889 Herの連続分光観測を2020年から150日以上行うことで、太陽型星スーパーフレアの可視光連続分光観測に世界で初めて成功してきた。そのうち二件では、青方偏移するHα線の吸収/放射成分が見つかり、他の太陽型星でも噴出現象が発生している描像が明らかになった。また、NICER(X線)、TESS(可視連続光)との多波長同時観測にも成功し、我々のよく知る太陽フレアと異なる放射機構まで示唆されてきている。本公演では、近年明らかになった成果をレビューし、今後の展開を議論する。
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Blue wing asymmetries in chromospheric lines during mid M dwarf flares from simultaneous spectroscopic and photometric observation data (野津湧太)
M 型星フレア中の Hα 線では、輝線輪郭が青方偏移した超過成分を示す例が報告されている (e.g., Maehara et al. 2021)。フレアに伴う質量放出を反映する可能性もあるが、青方偏移の生成過程の理解は不十分で、可視連続光や X 線の時間発展との関係や、Hα 以外の彩層線で青方偏移は同様に観測されるか、に迫る観測が重要である。そこで、M 型フレア星 3 星 (YZ CMi, EV Lac, AD Leo) を対象に、米国 APO3.5m 等での可視高分散分光と、地上望遠鏡と TESS 衛星での可視測光での同時観測を実施してきた。その結果、42 例のフレアを検出し 7 例で Hα線の青方偏移した超過成分が確認された(うち1例ではNICERでX線フレアも観測)。その概要と青方偏移継続時間の多様性、可視連続光増光やX線増光との対応関係、Hα 線以外の彩層線での青方偏移の有無など、様々な性質が分かってきたので、その概要を報告する。
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せいめい望遠鏡とSCATが捉えたおひつじ座UX星の巨大フレア (浦部蒼太)
太陽以外の恒星では、放射エネルギーが太陽フレアよりも桁違いに大きいフレアが検出されているが、これらを発生初期から可視光帯域で分光観測した例は少ない。そこで我々は、巨大なフレアの検出例が多いRS Cvn型星をモニタ観測した。京都大学の3.8mのせいめい望遠鏡(KOOLS: R=2000)は、2020年におひつじ座UX星で発生した大規模なHα線フレアの観測に成功した。中央大学の0.36m低分散分光望遠鏡SCAT(Alpy600: R=600)は、せいめい望遠鏡が捉えていなかったフレアの立ち上がり初期の観測を行っていた。本講演では、2台の望遠鏡の観測によって得られた、Hα線の放射エネルギーやプロファイルについて報告する。
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おひつじ座UX星で起こった巨大フレアのせいめい及びMAXIによる同時観測 (那波咲良)
2022年4月3日、近接連星系のおひつじ座UX星で起こった巨大フレアを全天X線監視装置MAXIで検知し、5.5時間後からせいめい/KOOLS(口径3.8m、 R=2000)で12日間の追観測を行った。X線及びHα線の両帯域での放射エネルギーはそれぞれ10^38 erg、10^37 ergであり、これらは先行研究の比例則(Kawai et al. 2022)の延長で説明できた。せいめいではフレア中のHα輝線の連星運動によるドップラーシフトを観測することができた。その速度変化から、今回のフレアの足元が主星にあり、さらにその足元は連星の外側にあることがわかった。また、中央大学の可視光測光望遠鏡CAT(口径0.26 m、BVRIバンド)でモニター観測で得た黒点の位置と、今回のフレアの発生位置がおおよそ一致していた。
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RS CVn型連星V1355 Orionisにおけるスーパーフレアに伴う高速プロミネンス噴出 (井上峻)
太陽フレアはプロミネンス噴出を伴うことがあり、それらはコロナ質量噴出 (CME) へと繋がりうることが知られている。恒星フレア中に見られる青方偏移したバルマー線の輝線・吸収線成分はプロミネンス噴出によるものだと考えられているが、その青方偏移から算出された噴出物の速度が星表面での脱出速度を超過していた例は極めて少ない。本研究では、比較的規模の大きいスーパーフレアを起こすことが知られている RS CVn 型の近接連星である V1355 Orionis(K2IV+G1V, 公転周期約 3.8 日) を TESS の可視光測光観測に合わせて京都大学岡山天文台の 3.8m せいめい望遠鏡を用いて分光モニタ観測した。その結果、7.0 × 10^35 erg のエネルギーを解放するスーパーフレア を捉えることに成功した。このフレア中には Hα線の輝線に顕著な青方偏移が約30分間確認され、その速度 は 760−1690 km/s という非常に大きいものだった。これは約350 km/s という星表面での脱出速度を大幅に超過しており、スーパーフレアに伴って発生したプロミネンス噴出が CME にまで発展したことを示唆している。さらに、 この噴出物はその速度だけでなく、質量までもが青方偏移によりプロミネンス噴出が確認された例としては最大級クラス(>10^19 g )であることもわかった。本発表では、上記のイベントについてその詳細を報告する。
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